チームを変えたオシムサッカーのキーワード チルドレン座談会【前編】

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2025/10/03 13:51

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イビチャ・オシムさんが描いたサッカーのキーワードを、オシムチルドレンたちの座談会で振り返ります。アンバサダーの佐藤勇人さん、羽生直剛さんに加えて、オシムジェフでプレーした立石智紀さん、山岸智さん、工藤浩平さん、水野晃樹さんがオシムさんから得た学びを語り合い、チームを変えたキーワードを振り返ります。(2024年1月に収録)

 

 

【三手先まで考えろ】

 

羽生)

みんな集まってくれてありがとう。

 

オシムさんとの出来事を思い出して、学びのヒントを見つけようという会なんだけど、オシムさんから掛けられた言葉で印象に残っているものってある?

 

俺は体が小さくて弱いって思っていたけど、「体が小さいんだから90分間体をぶつけられないように工夫しろ、それができれば十分いい選手になれる」って言ってもらったことを覚えてる。

 

 

背中を押してもらった気がする。

 

水野)

俺は個人的には少なかったけど、攻め込んでから囲まれることがあったから、「お前にDFを引き付けたら周りがフリーになるから、判断力をつけろ」とか、そういうのはよく言われていたな。

 

羽生)

なるほどね、あと、「予測しろ」っていうことだよね。

 

水野)

「三つ先まで考えろ」みたいに言っていた気がする。

 

山岸)

予測することで、次の展開で相手よりも早く、人数をかけて上回れる状況をつくれていたと思う。

 

羽生)

たしかに、トップの選手にパスを当てて、周囲がサポートしてって練習があったじゃん。

 

ああいう練習ってパスを受ける選手の、周囲の他の選手が予測して動かなきゃいけなくて、意識がついた気がする。

 

そういう練習の中で「予測」とか、「二手先、三手先まで考えなさい」って言われたのか。

 

山岸)

「一手先、二手先、三手先まで考えて動くようにならないといけない」というメッセージはずっと感じていた。

 

 

自分でも意識が変わったなと思っていて、もともと本能的な、勘でやってきたところが多かったけど、言われたことを意識するようになったら、よりプレーがスムーズになった印象はある。

 

結果的に試合の中で、練習で言われたとおりの場面が出てきて、そこから得点につながって、チームが勝つという結果につながった。

 

だから間違いじゃないと実感したし、成長できたと思う。

 

 

【ゴール決めなくていいよ】

 

羽生)

ほかにも印象深い言葉ってある?

 

勇人)

一番印象に残っているのは、トレーニングマッチが終わった時、「お前はゴール決めなくていいよ」って言われたこと。

 

羽生・工藤)

ふふっ。

 

勇人)

当時、練習試合でもけっこうミドルシュート撃っていて、点が取れていたから、調子乗ってたわけじゃないけど、意識的に点を取りに行っているように見えたんだと思う。

 

羽生)

冗談っぽくじゃなくて、真顔で言われた?

 

勇人)

真顔。

 

俺は「はい」って言った。

 

羽生)

ははは。

 

勇人)

オシムさんって、常に選手の心理状況とか背景まで見ているから、きっとその時のエゴイストなプレーがオシムさんの中でひっかかったんだろうね。

 

羽生)

工藤は例えば試合に途中出場する時とか何か言われた?

 

工藤)

全然、ないです。

 

勇人)

途中から出る選手に対して、何も言わないってすごくない。

 

工藤)

すごいっす。

 

そもそも、ベンチに入れるかもわからなくて、その日の練習見てベンチメンバー決めていたみたいなところありますよね。

 

急にベンチに入ったメンバーが途中出場で点取っちゃうこともあって、オシムさんってよく見ていたんだなって、今になって思いますね。

 

羽生)

当日の午前中に、最後のメンバー選考をしていたってことだよね。

 

勇人)

結果的に「ベンチ入りに値しない」とか言って、フィールドの選手がいなくて、キーパー2人入ったことあったよね。

 

工藤)

ありましたね。

 

オシムさんが細かく見ていたから、選手全員が試合に参加している意識を持っていたと思います。

 

 

【いつもどおりやればいい】

 

羽生)

ほんとそうだよな。

 

練習ではすごく細かいことも言うし、“設定”として怒る。

 

でも、試合になると行って来いという感じで自由が与えられていて、結果、何が起きてもごちゃごちゃ言わない

 

この状況で工藤を出せばこうなるって分かっているから、「お前らしくいけばいい」って感じなんだろうね。

 

工藤)

守備も攻撃も特に指示されたことないんですよ。

 

 

それだけの練習をしていたし、自分が何をしていたか見ていてくれていたんですかね。

 

羽生)

それこそ、練習よりも練習試合のほうが楽だったよなあ。

 

工藤)

ですね、水曜日の練習試合好きでしたもん。

 

練習で僕が覚えているのは、トルコでキャンプした時、オシムさんが具合悪いからって、ホテルの部屋に戻ったんですよ。

 

で、練習の途中みんな座ったりしている時に、ホテルの部屋のほうを見たら、窓際にオシムさんいたっていうエピソード。

 

羽生)

どんな話だよ。

 

工藤)

具合悪くて寝てるって聞いていたのに、あ、見てるぞって言ってパス回しを始めたのを覚えてます。

 

パススピード上げましたよ。

 

水野)

ふふっ。

 

羽生)

たてさん、覚えてるエピソードあります?

 

立石)

当時のナビスコカップ(Jリーグカップ)の決勝の前日に、練習やめようってなったことかな。

 

取材の記者とかいっぱい来てて、選手みんな浮足立っている中で練習に入ってしまって、そしたら「こんなんじゃ意味ないからやめよう」ってなった。

 

「明日、負けたら死ぬわけじゃない」って言っていた。

 

水野)

思い出したんだけど、何もミーティングしないで試合に出ていったのが印象的で。

 

ホテルからスタジアムに向かうまでのミーティングで、白紙のホワイトボードを出して「今日は何も言うことないから行くぞ」って試合に向かった。

 

詳しく聞いてみると、「今日のために1週間みんな準備してきているし、相手がどんなチームかも何回もやっているからわかるだろう。だからいつもどおりやればいい」って。

 

1週間何をするか事前には明かされないで、今日はこれ、今日はこれやるってオシムさんが決めていったけど、結局試合になると想定した場面が必ず訪れていた。

 

対策をしていないようで、していたんだなと思った。

 

 

【選手の強みを活かす】

 

立石)

またナビスコカップの話になっちゃうけど、試合前にミーティングしている時、「相手はリーグ優勝の可能性がまだ残っている。カップ戦を落としてもまだチャンスがあると思っているだろうから隙がある」みたいな話をしていた。

 

そういう心理的なところを踏まえてのゲーム運びはやっぱりすごい。

 

羽生)

たしかに相手の立場だったらみたいな言い方が多かった気がしますね。

 

立石)

ハーフタイムもそういう話が多かった。

 

 

前半あまり良くなくても後半は相手がこうなるから、うちはいけるという話をされると、本当に流れが変わることが多かった気がする。

 

羽生)

ハーフタイム後に出てきた選手が、途中で退場した試合ってあったよね。(※2004年 名古屋グランパスージェフ市原・千葉)

 

水野)

うん。

 

羽生)

中盤の外国人選手を止めるために、DFなのにいきなりボランチのポジションで出てきて。

 

オシムさんの目から見たらその外国人選手が中継役になってやられているから、ボランチでもないのに出してマンマークさせて、でも激しくディフェンスに行きまくっちゃって、出場35分くらいで(イエローカード2枚で)退場して。

 

さすがにオシムさんに怒られた?って聞いたら、「ブラボーって言われた」って。

 

勇人)

あったあった、覚えてる。

 

羽生)

急にボランチで出されて、やっちゃたよと思ったのにブラボーって言われたら、そのあともやる気しか出ないよね。

 

勇人)

オシムさんって、選手の強みを見つけるのがすごいよね。

 

ボランチに入ったからってパスとか中継役とか求めていないぞと、いつも通りのプレーをすればブラボーなんだぞってことだよね。

 

けど、実際はスカウティングをめちゃくちゃしてたらしいよ。

 

羽生)

そうだよな、監督の仕事というか分析とかはしっかりやってる。サッカーずっと見てたもんね。

 

工藤)

寮にいたころ、もう寝ようかって時、食堂でまだ試合を見てましたもんね。

 

羽生)

え、寮にオシムさんいたの?

 

山岸)

オシムさんってお酒と魚が好きじゃん。

 

寮の近くで魚を買って、それを料理してもらって、つまみにしてお酒飲みながらサッカー見ていたって、しょっちゅうあったらしいですよ。

 

羽生)

家でもずっとサッカー見ているって聞いてたけど、寮でも見てたんだ。

 

 

【驚きの練習】

 

勇人)

そういえば、オシムさんが求める理想のゴールキーパーはだれと聞かれて『手が使えるカンナバーロ』だと言っていていたと、以前記事で読んだことがある。

 

ノイアーとか出てくる前の話ですよ。

 

そのあたり、たてさんって足もとがうまかったから、オシムさんの中ではハマったんじゃないですか。

 

立石)

とにかく「つなげ」ってすごい言われた覚えがある

 

羽生)

すごいですよね、誰が出ても、つなげつなげって言われた。

 

水野)

4対4の練習で、プレッシャーがないのに、なんでキーパーがシュート撃たないんだって言ってましたよね。

 

 

どう思いました?

 

立石)

ふつうに練習していて、シュート撃ちたいなっていう瞬間はあるんだよ。

 

撃っていいって言われたら撃つよね。

 

羽生)

ほかにもこんな練習したなって覚えてる?

 

水野)

人に驚かれるのは、ピッチ全面で3対3とかかな。

 

工藤)

いや、全面1対1ですよ。

 

1対1から始まって、「なんで助けにいかないんだ」って言われて、ピッチに人が増えていって、最後には11対11くらいまでいきました。

 

羽生)

あったなー!

 

 

【何も言わず、チームを去った】

 

羽生)

一番の思い出っていったら何だろう?

 

山岸)

いちばん印象深いのはオシムさんが代表監督になる時かな。

 

岐阜でジェフのキャンプしていたけど、何も言わずに(息子の)アマルさんに監督が変わった。

 

何かしらのメッセージがあるのかと思ったけど何にもなくて。

 

オシムさんっぽいけど・・・

 

その時、俺はまだ若かったし、オシムさんがなぜ何も言わなかったかと自分なりに考えると、「代表で待ってるぞ」じゃないけど、個人的にはそういう意味を感じた。

 

あくまで個人的にだけど、ここから自分たちで這い上がって、国を背負ってサッカーやろうって捉えた。

 

羽生)

結果的にみんな代表にその後呼ばれるし、また会えるという感覚だったかもしれないな。

 

俺たちにずっと「なんで満足しているんだ、なんで代表を目指さないんだ」って言っていたじゃない。

 

実際に代表監督になって、「お前らだって代表選手になれたじゃん」って言いたいがために代表監督になったのかもと思った。

 

山岸)

ほんとそういう感じがした。

 

けど、オシムさんってそういうことは言葉にしないじゃないですか。

 

だから、余計に選手たちが感じて、高みを目指していけるような状況を作ってくれていたのかなと思った。

 

 

【後編】は近日公開します。

サッカーにとどまらないオシムさんから受けた影響、想いを語りました。


<座談会に参加いただいた皆さんのプロフィール>

佐藤勇人さん

JAPANIZE FOOTBALL 発起人/ジェフユナイテッド千葉・市原 CUO

ジェフの下部組織出身でジェフや京都サンガF.C.でプレー。2000年にプロ契約をするとオシムさんに見出され主力として活躍し、ジェフでクラブとして初のタイトルを獲得。通算546試合に出場。

羽生直剛さん

JAPANIZE FOOTBALL アンバサダー/Ambition22 代表

ジェフやFC東京などでプレー。オシムさんのもとで「水を運ぶ人」と評される動きで、所属クラブや日本代表の中盤で活躍。引退後、FC東京のスカウトを経て、自身が代表を務める会社Ambition22を設立。

立石智紀さん

ジェフユナイテッド市原・千葉 アカデミー GKコーチ

Jリーグが開幕した1993年にジェフでデビューし、キャリアは16年。オシム監督就任以降に出場機会を増やし、チームが初めてタイトルを手にした2005年のJリーグカップではMVPを獲得。引退後、ジェフの育成年代のコーチを務める。

山岸智さん

レガーレFC広島 育成ダイレクター

ジェフのユース出身で、主にMFとして活躍。オシム監督が就任した2003年にJ1初出場を記録し、その後日本代表にも選出。サンフレッチェ広島など複数のチームで、18年間に渡りプレーした。現在は広島県を拠点にサッカーの普及・育成に取り組む。

工藤浩平さん

ジェフユナイテッド市原・千葉 アカデミー コーチ

ジェフのジュニアユース、ユース出身で、オシム監督のもとでプレー。京都サンガF.C.やサンフレッチェ広島などでプレーし、日本代表にも選出。2023年栃木シティで引退。現在は小学生の年代への指導を担当。

水野晃樹さん

いわてグルージャ盛岡 GM

高校卒業後、オシム監督率いるジェフにてデビューし、日本代表にも選出された。スコットランド セルティックでプレーした後、日本国内の複数のチームでプレーし2024年現役引退。最後の所属チームであるグルージャにてGMに就任し、チームの強化を担う。

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